木育

木育・端材有効活用方法

子どもをはじめとするすべての人が 
 

「木育(もくいく) 」の取組は全国で広がっており、木のおもちゃに触れる体験や木工ワークショップ等を通じた木育活動や、それらを支える指導者の養成のほか、関係者間の情報共有やネットワーク構築等を促すイベントの開催など、様々な活動が行政や木材関連団体、NPO、企業等の幅広い連携により実施されています。
林野庁においても、子どもから大人までを対象に、木材や木製品との触れ合いを通じて木材への親しみや木の文化への理解を深めて、木材の良さや利用の意義を学んでもらうという観点から、木育の取組を推進しています。

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「木育」とは何か

「木育」は幼児期から原体験としての木材との関わりを深め、豊かなく らしづくり、社会づくり、そして森づくりに貢献する市民の育成をめざす 活動です。
例えば、以下に示すような活動は、代表的な「木育」の活動です。「木育」の活動は非常に 多様であり、そして学習対象の年齢や活動の場を選ばない、自由度の高い活動なのです。

子どもたちが木と触れあう活動

木を使った遊びやものづくりに親子で挑戦

学校で木材生産(関係)者が木についての出前授業

大人が自分のために趣味で行うものづくり

森林での間伐体験と間伐材の利用についての学習

「木育」は、幼児から高齢者までを対象とした、生涯にわたる幅広い活動 です。木についての様々な体験は、単に木についての理解を深めるだけでな く、鋭い感性や自然への親しみ、森林や環境問題に対する確かな理解の基礎 を育むものです。木材の温かさややさしさを知らない人からは、木材利用は 森林の破壊や環境の悪化ととられがちです。 

一人ひとりが考え、行動しなければならない時代だからこそ、木材をより よく使う知恵と技、そして木材や森林についての知識と行動力、そして私た ちの暮らしや文化、伝統の形成に大きく貢献してきた「木の伝統」を受け継 ぐ確かな力を育てたい。そんな強いおもいが、「木育」という言葉にはこめ られています。

平成18年9月に閣議決定された「森林・林業基本 計画」においても、「木育」を『市 民や児童の木材に対する親しみや 木の文化への理解を深めるため、多 様な関係者が連携・協力しながら、 材料としての木材の良さやその利 用の意義を学ぶ、木材利用に関する 教育活動』と位置づけています。

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充実した「木育」へ

学習する人の年齢や経験に応じた段階を意識することで、従来の木の体 験活動が充実した「木育」へとかわります。このテキストでは、「木育」 のステップによる活動を推奨しています。

具体的には、次の3つが「木育」のステップと呼ばれています。

ステップ 1

触れる活動「触れ、感じる」

ステップ 2

創る活動「創り、楽しみ、学ぶ」

ステップ3

知る活動「知り、理解し、行動する」

指導者は、多様で自由度の高い「木育」を展開する上で、1誰を対象とす るか、2どんな活動を展開するか、ねらいを十分に検討し、明らかにする必 要があります。このテキストでは、受講者の発達段階や経験に応じた、「触 れる」「創る」「知る」の段階的な取組(「木育」のステップによる活動)に よる展開、実施の方法を、わかりやすく、具体的な活動例を示しながら解説 しています。また、目標設定から事前の準備、安全管理の方法までを見通す ことのできる活動計画チェックリスト、活動実施計画書、安全管理チェック シートなど役立つ資料を添付しています。 

3つの「木育」のステップの役割を理解し、意識することで、これまで行 われてきた「ものづくり教室」や「学校での出前授業」などが、充実した「木 育」の活動となるのです。まずは、この「木育」のステップを十分に読み、 理解しましょう。 

「木育」の進め方のイメージ

「触れる」「創る」「知る」の3つのス テップを通じて、花が開くようにいろ いろな力が育まれる

ステップ1のねらい

木材の良さを、五感を通して体感すること
木材をはじめ、森、樹木など様々なものに好奇心を持つこと

「木育」で最も基本となることは、木材に親しみを持ってもらうことです。 木材の良さを知り、親しむ経験が、木材を正しく利用し、森林を守ろうとす る気持ちのもとになるからです。大量消費社会にあって、日本人が風土の中 で大切に扱ってきた木材または木材製品に愛着を持ち、木材利用に肯定的な 人間を育てるためには、木材についての理解や利用技術を学ぶよりも前に、 受講者の五感に訴える「木の体験」が必要なのです。

活動のキーワード

指導者として心がけたいこと

「触れる活動」は、木材についての最初の体験(原体験)を形成する重要 な役割を果たします。学習する人に木の良い印象を与え、好奇心を高める楽 しい活動となるように工夫し、幅広い年齢の受講者が、木について学ぶきっ かけを作ることを意識しましょう。
このステップでは説明的な内容や活動から入るのではなく、木の良さを直 感的に、体感的に理解できるような活動内容から入ることが大切です。また 五感の中でも、普段、あまり意識されることのない、触覚や嗅覚をも働かせ ることで、印象に残る活動となるように工夫しましょう。
「触れる」対象も幅広く考えることが可能であり、木材製品、例えば楽器 や家具、生活雑貨などに「触れる」ことから入ることで、日本の木材文化、 地域の伝統、歴史など、様々な木の世界へと導くこともできるでしょう。

「Wood Start はじめまして、 木育」があります。
「木材が好き」「木材と仲 良くしたい」といった気 持ちを育て、「木育」の活動を通し て出会った人と深め、共感させるこ とが活動のひろがりにつながりま す。
「木ってなに?」、「どう してこんなにおいがする の?」「木にはなぜ模様があるの?」
といった、小さな疑問や好奇心を高 めることは、自然や環境に対する確 かな目を育てることにつながり、ひ いては身近な木材から、地域の森林 や木材、木材利用の未来について考 えるきっかけとなります。 「触れる活動」は幼児等の低年齢層のように、木材について初めて触れる 人、学ぶ人を対象にする場合に必要なステップですが、子育て中の人やはじ め孫を持つ人などを対象とした子育て支援や胎教に関する「木育」でも、
有効な取り組みとなります。

ステップ2のねらい

手や身体を使った創造的な活動により、手先の器用さや豊かな人間 性を高める
創造力や課題解決力など、日常生活において非常に重要な役割を果 たすと考えられる力を養う
幼児期から大人にいたるまで、木材を使った創る活動は人間の知的能力、 身体的能力の発達に優れた効果を発揮するといわれています。構想から設計、 製作・評価にいたる「ものづくり」の過程において、自ら考えつつ様々な課 題を解決することは、創造的な思考で問題を解決できる人間を育てることに つながります。 我が国では木材を用いた「ものづくり」が盛んに行われてきましたが、現 在では、社会環境の変化から、その機会は減少してきています。ステップ2 のねらいは、具体的には創造的な思考で問題を解決できること、材料として の特徴を実感させることであり、これを「創り、楽しみ、学ぶ」という活動 を通して実現することなのです。

活動のキーワード

指導者として心がけたいこと

「ステップ2 創る活動」は、単にものづくり(道具体験)を目的とした ものではありません。「ステップ1 触れる活動」で高まった木材に対する 親しみや経験をさらに発展させ、材料としての特徴をしっかりと実感させる ための重要な段階です。創ることや道具の使い方に重点を置くのではなく、 より良い木材の使い方、木材の良さが理解できるような活動が望まれます。
そこで、技能的な指導、支援だけに終始するのではなく、木材の良さを確 認したり、木材の科学的な特性等に対する好奇心を喚起したりすることで、 感性を高め、自然に対する素直な尊敬を深めさせることが大切です。また、 自分の作ったものに愛着を持てるように、楽しく、役に立つものを作る、創 る過程を楽しむ、また完成の喜びを味わわせるなど、活動のねらいや場の雰 囲気を大切にしていくことが重要です。

木材を使ってものを創るという活動は、知性、情操、 技術の調和した人間の全面的発達 に役立つものといわれ、150 年近 くにわたり学校教育の重要な学習 活動として位置づけられてきました。それは、木材が比較的軽軟で、 加工性に優れているため、その難易 度を学習の対象に合わせて容易に 調整・選択することが可能であるか らです。
木工や木工芸を通じた「木によるものづくり」は、我 が国の技術や文化の基礎になって いるだけでなく、木の良さを感覚的に、実体験的に深化させる活動です。

「ステップ2 創る活動」では、無理のない計画で、安全の行き届いた環 境で実施するために、材料の準備、製品の前処理(キット化)など事前の準 備を、受講者の木材についての知識や経験のレベルに応じて検討してくださ い。「創る活動」の計画と実施は、指導者の技術、経験や施設、設備、受講 者の年齢層などの状況に大きく依存します。指導者が行う一連の配慮は、継 続的に木材に接し、活用しようとする人間を育てる重要な要因です。以上の 留意点を十分に理解した上で実施計画を作成してください。

「ものづくり」を行うにあたっては、木材の持つ特性を実感するための科 学実験的な要素(例えば、のこぎりの縦挽きと横挽きの違いや、木口面と木 端面の加工性の違い等)を活動に取り入れることにより、材料としての特徴 をしっかりと捉えさせることができます。また、「ものづくり」の経験をも とに、先人たちの残した文化遺産(彫刻や建築物等)を技術的な観点から鑑 賞し、我が国の文化や歴史に対する尊敬や共感できる素質を育むことができ ます。 「創る活動」は余暇活動の一つとして個人的に使用する製品を作ることが多 くなりがちです。自分のために作ることも楽しいことですが、人に贈ること やみんなで使用することを前提にした製品の設計や製作は、社会的な貢献へ の意欲、家族間のコミュニケーション、思いやりの育成につながっていきま すので、ぜひ取り組みたい活動の一つです。

リンク IV.楽しく安全な木育活動の実施の ために(P29)
「創る」という行為を、「ものを創る」ことから、「自 分の生活を創る」、「地域の環境を創 る」など、その範囲を広げて捉え、 プログラムを設計できれば、受講者 の発達段階や学習に対するニーズ、 木材についての経験に応じた多種 多様な活動にすることができます。
創った作品にはタイトルをつけさせましょう。愛着 を高めることにつながります。

ステップ3のねらい

木材の利用と環境の関係を理解させ、環境に配慮した行動のための判 断力を養う
森林育成活動等への参画に積極的な姿勢を育む
木材製品を選択・利用できる、賢い消費者としての資質を高める

木材に親しみ、その特徴を理解した人は、木材を使ったり、生活に取り入 れたりすることに積極的になるでしょう。しかし、木材の利用や森林の伐採 には常に負のイメージがつきまとい、森林や木材が好きな人や木材関係者で さえ、誤った認識を持っていることが少なくありません。
「ステップ3 知る活動」では、適正に管理された森林から伐採された木 材を使うという、誰にでもできる行動が、森林の持続的管理や環境の改善に 大きく貢献することを学ぶ活動です。
適切な統計資料や読み物、絵、図表などを使いながら、木材の利用と森林・ 環境の関係を理解させ、環境に配慮した行動のための判断力を養います。木 材製品を選択・利用できる、賢い消費者としての資質や、森林育成活動等へ の参画に積極的な姿勢を育みます。

活動のキーワード

指導者として心がけたいこと

自然材料としての木材は、我が国の風土の中で生活に欠かせない材料とし て扱われ、文化や伝統を築く上で重要な役割を果たしてきました。しかしな がら、安価な石油化学製品や新素材の開発によって、生活の中での木材の位 置づけは低いものとして扱われるようになっています。しかし、高温多湿な 気候の我が国では、昔も今も木材の価値や利用の意義は高く、環境の改善に 向けてはさらに利用を推進することが必要です。
「ステップ3 知る活動」では木材と環境、文化、くらしの関係について、 科学的な知見や確かな情報をわかりやすい形で提供することにより、木材の 利用と社会や環境の関係を理解した人間を育みます。

「ステップ3 知る活動」 は、木材の適切な利用や 森林の健全化に向けて、現状や役割 の理解、関心、意欲の向上とともに、 具体の行動力を身に付けさせるこ とを目標とした、「木育」の最後の 段階として位置づけられます。

「木材利用が環境破壊につながるわけではない」、ということが理解され たとしても、それが具体の行動につながらなければ「ステップ3 知る活動」 のねらいが達成されたとはいえません。環境問題の解決には、知ることと同 時に、「関心を高めること」や「積極的な姿勢」、問題に出会ったときの適切 な「判断力」、「問題解決力」などを育てることを目標とし、それを「行動す る」というさらに高い目標へとつなげることを意識する必要があります。木 材利用と環境、生活との関係について気づくことをきっかけに、日々の行動 や生活、環境への影響を具体的に学ぶ活動を取り入れることにより、木材製 品を選択・利用できる人間、そして環境に配慮した行動ができる人間の素養 が高まります。

「知る活動」を計画する際には、行動することによる変化の具体例(例え ば、地球温暖化を防ぐ等)を示したり、市民として取り組む環境対策への参 加意識や貢献の喜びなどを実感できる活動を取り入れたりすることが重要 です。重要なことは、一つひとつの活動や生活の行動が、すべて何らかの形 で環境と「つながり」を持っていることを示すことです。

「知る活動」は、どうしても座学的な知識伝達の場になりがちです。活動 を豊かにするために、ワークショップ形式の活動や簡単な実験を含めること、 映像資料などを活用すること、学習の場の設定を工夫することなどが大切で す。言葉だけでなく、写真を用いたり、具体物を用意したり、場合によって は場所を屋外にすることも検討してください。受講者の「自ら学ぶ」意欲を 醸成するためにどのようなコンテンツが必要か検討する必要があります。

「ステップ3 知る活動」では、木材に関する体験活動から、森林のはた らき、林業の役割など、さらなる好奇心を喚起する活動を体験させることに より、森林体験活動への参画はもとより、直接的・間接的を問わず、森林育 成活動へ参画する人間が育まれることが期待されます。「木材で育った人た ち」が「木材を育てる活動」へと直接的・間接的に参加し、それを次世代に つなげていく、そのメッセージの発信が「木育」の重要な役割になります。

活動の中で必要な資料を 提示することは重要なこ とですが、受講者の知識、理解の状 況、発達の段階に応じて、表現や構 成の方法を変更することが重要で す。低年齢層には、物語にしたり、 絵本や紙芝居などにしたりして提 示することも有効です。 リンク 「木育ノート」や紙芝居などの支援 ツールが利用できます。(P39)
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「木育」のステップごとの活動目標

「触れる」「創る」「知る」の3つのステップは、「木育」の基本的な流れ や、計画の方向性を示すものであり、絶対的な工程ではありません。例えば、 受講者の木材に対する認識や理解度に応じて一部のステップを省略したり、 ステップの順序を組み替えたりすることもできます。さらに、複数のステッ プを並行させた多様な活動の場を作ることによって、子どもから大人まで、 幅広い受講者を「木育」の世界へとスムーズに誘うことができます。 「木育」を進めるにあたっては、受講者の年齢や知識、これまでの経験、さ らに木材に対する認識・理解度にあわせて(例えば、幼児用、小中学生用、 成人用等)対応することが適当と考えられます。次に示す表を参考にしなが ら、どのような活動がどの年齢層に適当か十分に検討してください。

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